ここはどこ?わたしはだれ?
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街を流していた時のことですわ。手をあげて乗ってくれはったお客さんに「どこまでですか?」とたんねたら「まっすぐや」と一言。
「まっすぐってどこまででんねん?」と聞くと「ええからずうっとまっすぐや、着いたら教えるし、ずっと行け」とのお返事でした。 その道は国道で、その気になれば東京まででも行ける道どしたし、遠くまで帰られるお客さんなんやろなあと思いました。
ほんならまあと車を発車させて、ひたすらまっすぐ進みました。
10分-お客さん黙ったはります。
20分-黙ったはります。
30分-もう滋賀県はいりました。 まだ黙ったはります。
「まだですか?」と言ってふりかえると、そのお客さんは目つぶってぐっすり寝たはるやおまへんか!慌てて車を止めてお客さんを起こすと、そのお客さん、最初はボーッとしてあたりを見回してから一言「ここはどこやぁ!」
てっきり私は目的地があんまり遠いんで、こっちが嫌がると思ってお客さんが黙ってはるんやと思てましてん。
いやはや気の毒なことしましたわ。遠くても近くても嫌がらへんよってに目的地ははじめに言うてや。
つっぱりハイスクール
- 修学旅行の貸切りの仕事もようもらいます。生徒さんが4、5人に別れてタクシーに分乗し、それぞれ自分らの行きたいとこに行くわけですわ。
観光バスで全員が同じとこ回るのも、みんな一緒で楽しいかもしれまへんが、班ごとに自分達で計画たてて回るのも、旅がぐっと身近になって思い出に残ります。私らも生徒さんのたてた予定や希望をみながら、一緒になってアドバイスしたり案内したり考えたりで楽しおす。
そやけどちょっぴりかなんなぁと思うのが、ツッパリの生徒さんが乗ってきはった時のことです。先生の目が離れるなり「おっちゃん、タバコするで」なんて言わはります。
タクシー会社の若い運転手やったら見て見ぬふりとかすることもあるかもしれまへんが、私ら個人タクシーの運転手はベテランばっかりやから、たいがいの運転手は注意してタバコ取り上げます。そやかてそんなん先生やお巡りさんに見つかったりしたら、その子の修学旅行の思い出も台無しやし、他の生徒さんかて暗い気持ちで帰らなあきませんやん。
その日もそんなツッパリの生徒さんどした。タバコが吸いたかったんかしれまへんが、どこに着いてもその子一人だけ車から降りしまへん。お昼食べよう言うても「食べたく無い」なんて言うて降りようとしません。
一生懸命に説得して、他の生徒さんが暗い気持ちにならんように盛り上げてなんとか回りました。
同乗の生徒さんから事情を聞かはったんでしょうか、2日目からは引率の先生がその子と一緒に同乗してくれはったんで助かりましたが、ほんま、普段の倍は疲れましたわ。
閑古鳥はどこにおる?
お客さんが来なくて仕事が暇でしょうがないことを「閑古鳥(かんこどり)が鳴いてる」なんてよう言いますわな。その日もそんな一日で、予約はないし、街を流しても全然お客さんはいやへんし、早々に切り上げて家に帰りました。
家に帰るなり嫁はんが「やけに早かったんやなあ」なんて言うもんでっさかい「あかん、閑古鳥が鳴いとる」と言うと、そばで聞いてた3歳の息子が「カンコドリ?どこで鳴いてんのん?」と聞いてきました。
私が困って「閑古鳥はなあ、大丸の上におるねん(※注)」と言うと、嫁はんはゲタゲタ笑っています。さらに「なんて鳴くの?」と聞かれたので「ひま〜、ひまぁ〜って鳴いとる」と言うと、更に嫁はんがお腹をよじってヒイヒイ笑います。
それからしばらく「閑古鳥が鳴いてるとこ見に行く!」と目を輝かして言いはる子供をなだめるのが大変でした。「閑古鳥はお父さんの車についてきたからもうおらへん」とか「ほんまは恐い鳥やから見つかったらあかん」とか言ってなだめました。
それから夜もふけて子供を寝かしつけようとした時のことです。布団の中でうとうとしていた子供がいきなりぱっちりと目をあけて「閑古鳥くるで!閑古鳥こわいで!」と言い出したんです。
ちょっと説明の仕方が悪かったんかなあ。でも確かに商売人にとって閑古鳥は恐い(笑)
(※注:大丸百貨店の京都本店の正面の壁には、ブロンズ製で巨大な孔雀のレリーフがついています。最近の建物には無い風格です。道からは見にくいけれど、京都に来たら「これが閑古鳥か」と眺めてみてください)
「どこでもいい」とは言うけれど
観光タクシーを予約していただいたお客さんに「どこを回りまひょ?」とたんねると「どこでもいい」とか「適当に」とか言われることがよくあります。
こういうお答えは楽なように見えて本当は一番難しいです。それが証拠に本当に「適当に」どこかを選んでご案内すると、そういうお客さんに限って必ずと言っていいほど不満そうな顔をなさいます。あからさまに「つまらんなあ」と言われることもあります。
どこでもいいとは言っても、そのお客さんが持っている、あるいは期待している京都のイメージのようなものがきっとあるはずなんです。それにプラスしてお客さんの予備知識や興味(京都や仏教や歴史に関しての)を一目で見抜かなければなりません。中学生を案内するのと大学教授を案内するのとでは、場所はもちろん、同じ場所でも説明の仕方が違うのです。
京都は市内に寺院だけでも1600以上、大小の観光スポットをあわせると数千ケ所になると思います。その中でも一日で回れるのはほんの数カ所です。清水寺や金閣寺に行けばいいのか、美空ひばり館や東映太秦映画村に行けばいいのか、巨大な寺院がいいのか、見た目に何もなくても歴史的な事件があった史跡を喜ばれるのか、わび・さびなのか、雅びなのか、定番か、それとも穴場か、etc。
そこで私らの間では「どこでもいい」と言われたら、お客さんの時間を無駄にしないためにも、とりあえずそこから一番近くて観光客なら誰でも行くような定番の観光スポットにご案内したらええと言われています。そこで一般的な説明をしながらお客さんの反応を見ます。そうすれば私らにはだいたいお客さんの考えているイメージや興味なんかが見えてくるんですわ。
そこから急いで次からのコースを頭の中で組み立てて、説明の仕方や内容なども決めていきます。お客さんみんなに喜んでいただくためには、これはこれで大変なんです。
もちろんそれができるためには観光知識と経験、それに勘が必要です。冗談まじりに観光タクシーは一人前になるまで10年以上なんて仲間内では言うてます。
もしできたら、だいたいでもええから、見たいような場所のイメージをもって来とくんなはれ。そのほうが私らも相談にのりやすいし、お客さん自身もより楽しく過ごせると思いまっせ。
ぶつけてへんがな
そのお客さんは「おい、運ちゃん」なんて言って、少し横柄なお客さんやなあという印象でした。私らベテランはこういうお客さんや酔っ払いの方でも慣れてるから何とも思いませんが、若い運転手やったらムッとしたかもしれまへん。
タクシーの運転手なんて単純やから、おだてといたほうが得するのになあと思います。下手にでるんやのうておだてるんですわ。特に「運ちゃん」は禁句の部類でっせ。まあ、関西だけの事情かもしれまへんけどなぁ。
最初からその調子のお客さん、降りるだんになって、お釣の10円を渡そうとすると「チップでくれたるわ、とっとけ」なんて言うて、そのまま行こうとなさいます。
どういう事情があっても、メーターで出た以上にお客さんからお金をもらうわけにはまいりません。私は慌てて「いや、いりまへん」と言いつつ10円玉をお客さんにパスしてしまいました。ほんまは「いえ、結構ですさかいに」くらい言うて手を伸すつもりやったのに、慌ててとっさに間違えてしまいましてん。
いや、失敗したなあと思いつつ、ちょっとしょんぼりして走っていると、組合からタクシー無線が入って連絡せいということです。なんやろと思って電話すると「今、お客様から組合に電話があって、あんたがお客さんの態度が悪いのに怒って、お客さんに釣り銭をぶつけた言うて、えらい剣幕で怒ってはったで」とのこと。
「何やそれ」と私は思わず言うてしまいました。慌ててパスしてしもたんは失礼やったけど、ぶつけてなんかいやへんがな。それにわざわざ私のナンバー控えて、電話帳でタクシー組合見つけて電話してるんかいな。
まあ、とりあえずお客様は神様ですわ。それに私が怒ってたなんて勘違いしたはるくらいやから、自分でも横柄やったかなと思ってはるわけやしね。それだけでもありがたいことです。次から気をつけさせてもらいます。
(本音:会社員やのうて自営業でよかった(^_^))
喧嘩はやめなはれ
- 修学旅行で学校から貸し切りの仕事をいただいた時のことです。私のタクシーに乗ってくれはった班の生徒さんがいきなり大げんかをはじめはったんですわ。あれは確か二条城でしたかいなぁ。私が案内している最中に、男の子二人がささいなことで「何を!」「やるか!」てな調子で取っ組み合いになりました。
私が割って入って「ばかたれ!!」と思いっきり一喝すると、二人はきょとんとして喧嘩をやめました。そのまま二人のえり首つかんで車まで引きずっていきましたが、何の抵抗もしません。
きっと、まさか学校に雇われただけのタクシーの運転手がここまでするとは思ってはらへんかったんでしょう。そやけど同じタクシー運転手でも、ただの会社員と関西の自営業者を一緒にしてもうたら困りまっせ。
車に二人だけを乗せて「原因は何や。おっちゃんに言うてみい」と言うと、二人はおずおずと話しはじめます。
二人の言い分をふんふんと聞いてから「まずここはお前が悪い、謝れ」と言うと一人が謝ります。「こんでええか」もう一人に言うとその子は頷きました。「そやけどここはお前も悪かった、謝れ」ともう一人にも謝ってもらいました。「こんでええか」と言うと、もう一人も頷きます。
「お互いに謝って、こんでええんやったら握手せい」と言うと、二人は握手しました。そこではじめてにっこり笑って「ほな続きまわろか」とそのまま観光を続けました。
その後、二人からはお礼の手紙を一回もらいましたけど、今頃どないしたはるんでしょうか。きっと立派な社会人になって結婚とかもしたはるんかなあ。
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